次の年には忘れてしまう

 
 
「人それぞれですよ。私がそうやって過ぎて、貴方はそうでなかっただけです」


「もっと長く、一緒にいても良かったと思いますよ。ずっとでも。未練もって悲しんでればいい。それは他人から眉をしかめられることかもしれないけれど、別にいいじゃないですか。永久に続くかといえばそうでもない」


「――でも、周りの方の優しさを解って、心配してくれる気持ちをありがたく感じて。受け取って。現状がこうなったことも、別にいいことだと思います」


遮られないものだから、雪穂は思いつく限りの、肯定を連ねる。


つむじに雨が降ったような気がした。それはおかしな話だ。雪穂には傘がある。男性が雪穂の代わりにさしてくれる傘。画き難い冬の夜空は相変わらずの雪。


ぐずぐずと音がするのも雪穂のつむじの上から。


こんな状況以外なら見上げることが出来ただろうかと、雪穂はどうでもいいことを考えて足元、ブーツの爪先を見るばかり。考えて、わからなかったから考えるのをやめた。


「すまない……」


すまない、すまない、と男性はぐずついた声を震わせて謝ってくる。雪穂には意味がわからない。


「君なら、肯定をくれると思ったんだ」


わからない。


「僕になんのしがらみもない人に……だってそうでなければ欲しい言葉はもらえない」


「……」


「けれどお人好しで優しすぎるような人に」


「私はけっこう意地が悪いですよ?」


「潰れてしまいそうな、そんなときに、そんな人に会ってしまったら……」


「――、はい」


「僕の、してきたことを、いいんだと言ってくれて、ありがとう。僕の求めたことを返してくれてありがとう」


ああ。それなら、わかる気がする。


今年の残り僅かな時間を使い、雪穂は男性の黒いスーツの背中を撫で続けた。祖母は雪穂にそれをしなかったけれど、今このときは限りではないと、雪穂自身が考えた救済。


「ただの無責任な慰めですけどね」