もっと一緒にいたかったと、男性は言う。
「もちろん、心の中に、記憶に脳内にいてくれる。けど、物理的にも離れたくはなかった」
あともう少し、もう少し。決心のつくまではと、男性は通常のそれよりも、ずいぶん長く妻の骨と過ごしたようだった。
「僕が、ではなく、妻が、いい加減疲れると言われてしまっては……」
そんなこと、誰がわかるというのだろうか。
「……君は?」
「えっ?」
「君は、どうやって気持ちに整理をつけられた?」
だって君は穏やかに見えるから。訊ねてみたくなったのだと、最後のほうは雪穂に問うてるようでいて、ひとりごちていた。
時刻はもうすぐ十二時となる。新しい年の幕開けだ。雪は、雪穂が来たときよりも細かく、頼りなく僅かな風にも踊らされる。頭上にある空は真っ黒いはずなのに、絶え間なく落ちる白のせいで知らない色だ。人間が描けるカラーではないかもしれないと溜め息がひとつ。
時間は滔々と流れていく。近くの、雪穂のつむじの上あたりから、鼻を啜る音がした。
雪穂の持っている缶のおしるこはもうとっくに冷たく、それは男性のほうも同じだろう。
「私は――、」
「……」
「――そんなようなものなのだと、流されるままに」
「そ、うか。……すまない」
「いいえ。お別れは決まっていて、それまでたくさん話をしましたから」
それが決して悲しくはないのとは意味が違うけれど、男性にはわかってもらえるような気が雪穂にはした。



