次の年には忘れてしまう

 
 
一瞬だけ、雪穂の言ってしまったことに、男性は戸惑ったようだった。


「……」


「……」


決して、困らせようと、したわけではなかった。袖振り合うにも満たない、今日だけの出会いの人にこんな。


「…………、妻の……」


「っ」


「妻を、ここに眠らせたばかりなんですよ」


決して、雪穂は男性にこんなことを言わせたかったわけではなかったのに。


きっと自分の顔は今、ついさっき男性にさせてしまった表情のそれになっているのだろうと雪穂は混乱した。


こういうときの慰めかたを雪穂は知らない。傘はもうさされている。祖母にしてもらったことしか、雪穂は知らないのだ。そして祖母にしてもらったことでこれ以上、この関係上してあげられることなどあるだろうか。祖母との関係は密すぎて、男性とはあまりに縁もゆかりもない。希薄だ。


自分では何も考えてこなかった。考えることは、八年前から苦手となって放棄することが多くなってしまったから。


けれど、とも思い心が軋む。雪穂は好奇心から、男性が墓に縋る理由に興味を持った。一度。一瞬だけ。……誘導を無意識なのか意図的なのかしてしまい、男性からそれを、操るように導き出した……?


なんてことを口にしてしまったのか。後悔など、永遠に枯れない泉のように絶えることはなく。


「もう、いい加減、ゆっくり休ませてあげなさいと、周囲が……今年のうちに、と」


男性は、この世の何よりも儚く微笑んだ。


そんなように、雪穂には思えた。