次の年には忘れてしまう

 
 
「未成年が飲酒はいけないな」


また嗜められるように言われるそれに、雪穂は何故か腹が立った。自分はもう大人なのだと。


「もう成人済みす。祖母には、老けてるとよく言われてました」


「おじさんには若く見えるよ。――そうか。なら、どんちゃん騒ぎは程々に楽しんで、これからは老けてる、ではなく、大人っぽいと言いましょう。この言い回しのほうが、君には似合う」


本当の大人というものは、こうもすらすらと恥ずかしい言葉が出てくるものなのか。雪穂の周りにはあまりいないタイプの人間で返答につまる。


泣いていた人とは本当に同一人物だろうか。けれど雪穂は考えるのをやめた。これは自分の悪いところだと思いつつ、今このときに限ってはそれでもいいだろうとする。


どうせ、今このときだけの縁のこと。


男性が傘を持ってくれたおかげで両手が空き、雪穂は何にも邪魔されることなく現在時刻を確認することが出来た。白いコートの袖を捲り、白いベルトの腕時計を見る。


雪穂の持ち物は白色が多い。祖母が買ってくれたものも多くコートも時計もそうだった。祖母は、雪穂には白が似合うわと、幸せそうによく口にしてくれていた。


時計の針が産まれた時刻を示す。雪穂は男性から離れ、祖母の墓を参る。ケーキの生クリームを人差し指で掬って口に含んだ後、箱に仕舞う。


そうしてから、祖母の好きだった百合の花を墓前に飾り、線香を付けた。


一言二言祖母に報告と会話を。墓に積もった雪を払い、男性の元へと向かう。


「祖母の命日でもあるんです」


何故余計なことまで伝えてしまったのか、雪穂にもわからない。