言葉で表現出来ないせいか、杏は表情で喜怒哀楽を表す。

コロコロ変わる杏の表情を見るのが、龍は好きだった。

「じゃあ、宜しく」

そう言いながら、龍は杏の頭を優しく撫でた。

そのせいで、杏は益々ゆでダコのように真っ赤になった。

龍はクスクス笑いながら、店を出て行った。

龍が居なくなった事を確認すると、店先のドアに、張り紙をした。

『配達の為、ご用の方は、こちらにメール下さい、店主。Anne.flower…』

電話ができない杏にとっての連絡手段は、メールしかない。でも、常連さん達は、皆、杏が耳が聞こえない事を知っているので、何か頼みたい事がある時は、メールをくれた。

春らしい花を選んだ杏は、車にそれらを乗せ、会社に向かった。