それから杏は、今迄通り週に一度の雷の生花教室に花を届け、その後、生花の指導を受けた。

これは、龍の意向だった。やましい事もないのに、辞める必要はないとのこと。

龍との結婚の話も、着々と進めて行く。

龍の父と、杏の父が、顔合わせ。

龍の母も、実はもう亡くなっている。

お互いに、そんな親近感から、父親同士すぐに意気投合していた。

…杏の左薬指には婚約指輪が光っていた。

仕事中には指輪は出来ない。花を傷つけることもあるし、水を使うことも多く、指輪にもよくない。

だから、仕事中は、チェーンネックレスに通して肌身離さず持っている。

着々と進んでいく結婚準備に、喜んであげなくてはならないのに、手放しに喜べない人物が一人。

今日は、杏は生花の指導を受ける日だった。1時間しっかり指導を受けて、出来た生花は毎回、御影の玄関先に飾ってくれる。

それを見て、2人で微笑み合う。

『ありがとうございました』
「今日も良い出来だね。そろそろ、俺が教える事も無くなってきたよ」

『そんな…私なんてまだまだ。もっと、いろんな事教えてください』

「…うん…杏ちゃん、結婚準備は、順調?」
『うん、雷君も招待するから、披露宴には是非来てね』


そう言って柔らかな笑みを浮かべた杏を見て、雷は無意識に杏の顔に手を伸ばし、触れていた。