そう言った龍は、とても凛としていた。

…流石は、藤堂を背負うだけの男だけある。まだまだ若い龍だが、この数年間、色んな修羅場をくぐり抜けてきた。

その後ろで二人を見守る雷もまた、御影の当主になって、もう6年位になる。

愛する人の為なら、どんな事も苦にならない。

『愛する人』

それは、昔も今も、変わらない。

進藤杏、ただ一人だけだ。

奪ってしまおうと何度思ったかしれない。

だが、杏の本当の笑顔を引き出せるのは、龍以外にいない事を知ってしまった今、もう、奪おうなんて思わなくなった。

例え、自分の物にならなくても、杏の笑顔が守れるなら、影からでもいい。

どんな手を使っても守り抜こうと思ってる。

忍愛なんて、今時流行らないかもしれない。

それでも、それが雷の愛の形。

「…それじゃ、今後の事は、おいおい話して行こうか。龍、杏ちゃんは、お前に任せるよ」


「…雷」
「…ん?」

「お前は今も、好きなのか?」

何が好きなのか。言わなくても龍も雷もわかっている。

「大好きだよ。でも、安心してよ。俺は、奪うなんて考えてないから」

そう言って笑うと、店を出て行った。

『…龍?』
「…何でもない。帰ろうか」

今の話の意味がわからない杏は、不思議そうな顔で龍を見上げた。龍は、笑顔で首を振ると、杏を連れ、家に帰った。