杏のその悲痛な顔を見て、雷は優しい笑みを浮かべた。

「…大丈夫だよ。杏ちゃんが一人で思い悩む事なんて無い。龍も、俺も杏ちゃんの傍にいる。
大体、俺を誰だと思ってる?御影の当主だよ?もう、100年近く続いてきた花道の家柄なんだ。ちょっとやそっとじゃびくともしない。

龍だって同じだよ。藤堂財閥も、明治から続く大企業だ。杏ちゃん一人守れないなら、社長でいる資格なんてない」

『…でも』

大好きな人に迷惑をかけるなんて、杏は嫌だった。

「…お、来たな」
『…』

店内に誰かが入ってきた事を知らせるライトが光った。

雷の視線を辿ると、血相変えた龍が飛び込んできた。

雷を通り過ぎ、杏を見た途端ひしと抱きしめた。

…雷がいるというのに。

杏は、オロオロした。

そんな対照的な二人を見て、雷はクスクスと笑う。

数秒抱きしめていた龍は、少し体を離して、杏を見下ろす。

「…お昼の杏の様子がおかしいと思ってたんだ。…全く、一人で悩んだりして。
専務の言葉なんて気にするな。会社も、杏も必ず守る。だから、杏はいつもみたいに笑ってろ。杏の笑顔があるだけで、俺は何だってやっていける」