「困惑されるのも、無理はありません」
『…』

物腰柔らかな坂上氏は、杏を安心させるように優しい声色で言っている。

だが、杏には、その声が聞こえるはずもなく、ただただ困惑顔で坂上氏を見つめた。

「とりあえず、これをご覧ください」

・・・杏は、目の前に差し出された週刊誌の、付箋が付けられた所を開いた。

目に写ったそれを見て、杏は思わず口に手を当てた。


『スクープ! 藤堂財閥 藤堂龍と 華道家 御影雷 を手玉に取る耳の不自由な悲劇のヒロイン?!』

杏の顔には、一般人と言う事でモザイクがされていたが、どこで撮られたのか、雷とのツーショットと、龍とのツーショットがそれぞれ撮られていた。

膝の上に置かれた片方の手は震えていた。

「今回は、何とか私がもみ消しました。ですが、次は絶対に載せると言われています。社長も、会長もこの事は知りません。内々の話しで留めています」


『…私は…私はどうすればいいでしょうか?』

手話で言っても、坂上氏にはわかるはずもなく、杏は、メモに同じことを書いて見せた。

「…私が言わなくても、お分かりになるでしょう?社長を助ける為に、どうするべきなのか。それに、貴女だって、一軒の店の経営者だ。こんな事が世間に知れ渡れば、店を続けて行く事は無理でしょう」


『…龍と結婚の約束をしたばかりなんです…今日だって指輪を買いに行こうって・・・雷君は高校の同級生で、友達で』