「…そうか…雷もなんか大変なんだな」

雷の言葉に、杏は頷いてみせた。

「なぁ、杏」
『…何?』

「雷は今も」

杏に真っ直ぐに見つめられ、龍は困ったような笑みを浮かべた。

『…龍?』
「いや…何でもない。生花の勉強は、順調か?」

龍の優しい問いかけに、杏はニコリと笑って頷いた。

そんな杏を見て、龍も微笑んだ。

「あー、腹減った。飯にしよう」
『あ、そうだね。今すぐ作るね』

「杏、一緒に作ろう」
『え⁈龍ご飯作れるの?』

あからさまに驚いた杏。龍は真顔で返した。

「全然」
『…』

その答えに、目を丸くした杏は、数秒後、プッと吹き出した。

…杏本人には聞こえていないけれど、杏は可愛い声を出して笑っている。

もう、何年も杏の声は聞いていないが、まだ耳が聞こえていた頃に聞いたあの時となんら変わらない可愛い声に、龍は嬉しくなって笑みがこぼれる。

そして、龍はたまらなくなって、杏を抱き寄せた。