「あ、そうだ。蒼介に聞いたんだけど」

「うん?」

(蒼介、だって)


越智と由紀が無事にお付き合いを始めて約1ヶ月。2人は順調に”同期”から”恋人”への移行を進めているようだった。

本当に上手くいってよかった。
あの後、由紀からはこれでもかというほど感謝の気持ちを告げられた。越智の気持ちを知っていて、課長と協力した作戦だったことには気付いていないようだ。


「1人、この秋から地方に転勤する人がいるみたい」

「へえ、去年はいなかったから今年はいるだろうなと思ってたけど。誰?」

「経理の影山さん」

「………ああ、あの人」


そういえば、飲みに誘われたあのとき以来話していない。
総務課と経理課は位置も遠く、用事がない限りすれ違うことも少ないのだ。だからこそ、あんな風に声を掛けられて驚いたのを覚えている。


「なんか問題でも起こしたの」

「まあ女関係は相変わらずフラフラしてたみたいだけど。”新しい環境で仕事の大変さ思い出してこい”ってことかもねぇ」

「もしかしたら大穴の出世コースかも?あ、あの車じゃないかな」


一台の車が近付いてきた。おそらく待ち構えていた相手だろう。

私達は口を閉じて、姿勢を正した。