「あーあ、こうなったら私も本気で恋愛克服しようかなあ」

「どうやって」

「知りませんよ教えてください」

「俺に聞くな」


今更恋愛しよう!と思ったって、何からどう始めたらいいのかよくわからない。ただ一つだけ、課長のような人と出会えたらいいなあとだけ、漠然と思った。


「紗羽」

「!?ぶほっ」

ぎょっとして危うくビールを霧吹きのように吐き出しそうになった。


「え、課長今なんとおっしゃいましたか」

「寂しいお前のために、今日だけ俺が下の名前で呼んでやる」

「ええええなんですかそれは」

「なんだ、お前が名前で呼び合ったりするのが羨ましいって言ったんだろ」

(…なんかちょっと違う気がする!)


「…紗羽、だろ?名前」

「!」

顔を覗き込まれながらそう言われて、自分の顔が一気に熱くなるのがわかった。

「待って!待ってください!免疫ないんですそういうの!」

「馬鹿いえ。…俺もない」


見ると課長の顔もほんのり赤い。


「……徹平、さん?」

「………今日だけだからな」


心臓の音がドキドキうるさい。
課長も、一緒なのだろうか。

やっぱり課長はすごい。
不安な気持ちも寂しい気持ちも、一瞬で消し去ってしまうから。

だけど代わりに少しの恥ずかしさ。

いつだったか、由紀に私と課長が似ていると言われたことがあった。
確かに今の2人は、同じように不器用だと思った。





次の日会社で会った由紀が幸せそうな顔をしていたのは、言うまでもない。