挨拶を終えた水瀬課長が、部長とフロアを出ていった。おそらくこれから引き継ぎや各部署への挨拶回りで忙しいのだろう。

途端に皆がザワザワと落ち着きをなくす。


「紗羽、かっこいい人ね!水瀬課長」


そう私に話しかけてきたのは、同期の清水由紀(しみずゆき)。


「そうかな…ちょっと怖そうだけど」

「その凛々しさが良いんじゃない!仕事面でもかなり優秀だって話だし」

「来る前から噂になってたもんね、すごい人が移動してくるって」


噂によると水瀬課長は、入社当初から頭角をあらわし、期待のホープと呼ばれていたらしい。
その優秀さは上司を圧倒させ、周りをやる気にさせ、この人のおかげで業績が伸びたとも聞いている。
そして今回この本社へ課長となって、研修期間ぶりに戻ってきたのだとか。


「まだ若いよね、課長にしちゃ」

「確かに…。なんか気合い入るなあ」


女子社員達がきゃあきゃあと騒ぐなか、何故か私は不思議な胸騒ぎを覚えた。