ーーカラン。
「いらっしゃい」
私がドアをあけると、若い男の人が私を出迎えてくれた。
「びしょ濡れだね。バスタオル貸そうか?」
バスタオル…、そういえば貸したままだな。
「髪を、切ってください」
男の人はにっこりと微笑む。
「承りました」
ーーーーーーー
「君はなぜ、びしょ濡れだったの」
シャンプーをしながら、男の人は私に尋ねてくる。
「傘…置いてきちゃったんです」
「…そう」
洗面台のシャワーの音だけが美容室に響いている。
お客さんはわたし以外誰もいない。
美容師もこの人だけだろうか。
「なぜ髪を切ろうと思ったの」
シャンプーが終わると、男の人は私に尋ねた。
「私には、長い髪は似合わないからです」
私は下を向いてそう言った。
「どうして?」
「女らしさのない、男勝りな女なんです。だから…」
私は言葉を詰まらした。
「だから…フラれちゃったんです」
私はシャンプー台から立ち上がり、鏡の前に立つ。
むだに背が高くて、日焼けのした肌。
無理に伸ばした手入れのされていない長い髪。
私は鏡の自分から目を逸らした。
「友達が、私と同じ人が好きなことを最近知ったんです。私と正反対の、可愛い子です」
「そうなんだ」



