「うお、また梶原がトップかよ」

プールサイドには白のTシャツを着て、水着をはいた中森海人(なかもりかいと)が、記録表を見ながら暑いのか左手でぱたぱたとあおいでいる。

「なによ、何か文句あるの?」

「俺よりもはやいなんて、お前ほんとに女かよ」

「失礼なやつだなっ!文句あるなら抜かしてみせなさいよ!」

私はプールから上がり、中森をきいっと睨み付ける。

「おお!上等じゃねえか!」

中森と私の間に、火花が散りそうなほどの睨みあいがくりひろげられる。
水泳部のみんなは、そんな私たちを見て"また始まったよ…"と呆れていた。

「ああもう、ストーーップ!」

私たちを引き離し、間にはいったのは瑞穂だった。

「あんたたちね、仲が良いのはわかったから……」

「「仲良くない!!」」

偶然にも言葉がシンクロし、驚いて中森と顔を見合わせたけれど、すぐにお互いそっぽを向いた。

「それのどこが仲良くないのよ~」

瑞穂はため息をひとつついてから、私たちを見ながらふふっと笑った。