終業式も終わり、通知表も受け取り一学期も終わる。

教室を出てすぐ、廊下の向こうに先生の姿を見つける。
こちらに歩いてくるようだった。

「楠木」

わたしを呼ぶ先生の声だった。

「ちょっといいか」

少し哀しい笑顔で、先生は言った。


ーーーーーー

あの日以来にきた数学科準備室は、前とは違って掃除がされていて、物もかなり減っていた。

あの噂が本当なのだと思い知る。

「先生、本当にやめるんですね」

私はぽつりと言う。

「前に進むには、この学校から離れるのが一番だと思ったんだ」

沈黙が流れる。
なにか言わなきゃと思うのに、言葉がでない。

「楠木」

沈黙を破ったのは先生だった。

「しばらく時間がほしいんだ」

そう言って先生は私の頬からこぼれおちていく涙を、指でぬぐった。

先生が居なくなってしまう。
これが本当の失恋だと思った。