失恋シンデレラ

手に持ったスクールバッグの持ち手に力が入る。
手が汗ばんできているのがわかった。

「でも伝えないと、意味がないと思ったんです。伝えないと、先生のことを好きな気持ちが、心のどこかひっかかったまま前に進めなくなってしまうと」

「……」

一筋の涙が頬を伝ってこぼれた。
先生は何も言わなかった。

「…先生、質問です。これで先生の心の中に、私は少しでも残れるでしょうか」

先生はしばらく何も言わなかった。
ただ、下を向いたままずっと動かないでいた。

振られたって良かった。
もう覚悟はとっくにできているから。

「俺も…」

沈黙を破ったのは先生だった。

「俺もずっと前に進まなきゃ、忘れなきゃって思っていたんだ」

先生は窓際のほうへ向かい、窓の外を眺めはじめる。

朝風が、先生の横を通りすぎる。
茶色く透けた先生の髪を揺らした。

「でも彼女を忘れたら、自分にはなにがあるのかわからなかったんだ」

私は何も言わずに、先生の後ろ姿を見つめていた。

「でも楠木みたいに、ちゃんと俺を見つめてくれている人もいるんだと気づいた」

窓の外を見ていた先生が、こちらを向いた。

「ありがとう」

先生は笑った。

昨日までの先生とは違う、遠くを見つめているような哀しい笑顔ではなかった。
ちゃんと心の底から笑っているように思えた。

いつの間にか涙も止まり、私もつられて笑っていた。