失恋シンデレラ




朝の7時に学校に来ている人なんて、部活の朝練をしている人と、一部の先生くらいだろう。

私は誰もいない廊下をゆっくりと歩く。
聞こえてくるのは、朝練をしている陸上部のかけ声くらいだ。

私は南校舎2階の一番奥の、数学科準備室の前で足をとめる。

昨日とは違って、緊張はさほどしていなかった。
私は扉を2回ノックした。

「はい」

少し間を置いて返事が返ってくる。
朝なせいか、先生の声が低い気がした。

「…失礼します」

私が扉を開けると、ついたてに隠れて先生が見えない。

「藤井先生」

私がそう呼び掛けると、先生はついたての向こうから顔を出した。

「…え?楠木か……?」

先生は驚いて目を丸くした。

「どうしたんだよその髪」

大胆に切った私のショートカットヘアをみて、先生は驚きを隠せていない。

「切っちゃいました」

私はにっこりと笑う。
目を丸くする先生に、私はさらに切り出した。

「わたし、藤井先生のことが好きです」

ずっと伝えたかった気持ち。
もう遠くから先生を見つめているだけだった、昨日までの私ではなかった。

「伝えても仕方がないと思っていました。私は子供、先生は大人。この歳の差はいつまでたっても縮まらないし、生徒と先生という事実も変わりません」