失恋シンデレラ

「それは失恋じゃないよ」

美容師の男性はトリートメントをシャワーで流したあと、タオルで髪をふきながら言った。

「告白して、振られたらそれは失恋だ。でも君は、先生に好きだって伝えていないでしょ。だから君は、失恋していないよ」

シャンプー台からおりて、鏡の前の席に案内される。
席に座ると男性は、カットの準備を始める。

「先生は白雪姫のように、長い間眠ったままなんだ。だから君が王子様になって、目覚めさせてあげるんだ。王子様のキスで、白雪姫は目を覚ます。彼女はもういないって、前に進まなきゃだめなんだと教えてあげるんだ」

男性はハサミを持ち、私の髪に触れる。
そして私の長かった髪は、パラパラと下に落ちていく。

そうだ。
私はまだ、先生に想いを伝えていない。

伝えても無理だ、届かないと自分で判断して向き合うことから逃げていた。

先生は高校生のころから、前に進めていない。
先生も、現実と向き合うことから逃げている。

だったら私が前に進んで、先生を白雪姫の眠っている箱の中から連れ出せばいい。

ずっと先生を、遠くから見つめていた私にさようなら。

そして、無理に背伸びをして髪を伸ばしていた私に、さようなら。