失恋シンデレラ

先生は立ち上がり、窓の外を眺める。

向こうを向いていて先生の表情はわからない。
でも微かに震えた声が、哀しみを押し殺しているように感じて辛くなった。

私は何と声をかけて良いかわからず、黙ったまま窓際の先生を見つめる。

「…彼女は髪が長くて綺麗で、前髪は眉毛の下くらいの長さで、目立つタイプではなかった。楠木と少し似ているよ」

ーーズキン。

先生は私の向こうに、死んだ彼女を見ている。

さっき先生が、私の髪に"触っていい?"と聞いたのも、私を彼女と重ねていたからだ。

先生が職員室ではなくて、数学科準備室に一人でいるのは、彼女を思い出して"二人きり"になりたいからだ。

先生の中にはずっと、彼女しか居なかった。

少しでもおしとやかに見えるようにと、伸ばしていた髪。
17歳で子供の私が、25歳で大人の先生に少しでも近づきたいと思って伸ばしていた髪。

私は、先生の背中に届かない。
いまこの瞬間、誰よりも先生の近くにいるのに。

近くに居たって、先生に見えているのは彼女だけ。
私は彼女には、勝てないんだ。