特に目立った会話もなく黙々と食べ物を口に運ぶ。
……おかしい。普段ならもっとワイワイ話すのに。
食べ終わった私が立ち上がり、自室へ戻ろうとすると、
「今日から仕事に出てくる。多分しばらく帰れない。」
背中越しに真面目な父の声が聞こえた。
やはりおかしい。いつもと雰囲気が違う。
いつもならば笑って仕事の内容まで。場所まで全て楽しそうに話すのに。
「どこで仕事あるの?」
振り向いてそう聞くと何故か沈黙が流れる。少し間が空いて、
「ルーブル美術館」
そう父が困ったような笑みを浮かべながら答えた。
ルーブルはお父さん達が何度か盗みに入ったことがある。いつもなら、今回も楽勝だ、なんて笑って受け答えをするのに。
今日はやはりおかしい。
それでも私は、今まで盗みで失敗したことのない私達の家族なら大丈夫だろう。なんて錯覚を起こして、
「いってらっしゃい、気をつけて」
そう送り出してしまったんだ。
