高校二年の夏、練習中に右肘を負傷した俺に医者は言った。

『野球を続けるのは難しいです。このまま続ければ、二度とボールを投げることができなくなりますよ』


待合室では謙二が待っててくれていた。心配かけまいと平然を装ってみたけど、親友の謙二には分かっちまうみたいだな。

『まぁ、しゃーないよな。肘を大事にしなかった俺が悪いし。だから……泣くなよ……』

そう言って、隣に座って顔を伏せている謙二の頭を、俺はポンと軽く叩いた。


少しひとりになりたかったから、心配する謙二をなだめ電車を乗り継ぎ、夕日を背にしながらあの坂へ向かった。


そして懐かしい景色が見えた瞬間、自然と涙が溢れてきて、それを何度も何度も必死で拭う。

才能があるわけじゃなかったから、人よりも何倍も努力してきたつもりだった。でもその結果がこれって……。

なんだよ……やっぱ悔しいじゃんか……。


『これで中矢君の夢に、一歩近づいたね……。おめでとう』


ごめんな、りりー。泣きながら応援するって言ってくれたのに、俺……ダメだったよ。

甲子園に出て優勝するのが、小さいころからの俺の夢だった。

けど、試合に出ることさえできないまま、呆気なく終わっちゃったんだ……。

自分の時間を割いてまで沢山勉強教えてくれたのに、一緒に喜んでくれたのに。

こんな俺じゃ、もうりりーに会わす顔がない……。


大好きな野球も大好きなりりーのことも、本気になればなるほど、傷って深くなるんだな。

本気になれば、なるほど……。


できればもう、こんな辛い思いは……したくねぇな……。



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