中矢君の言葉に振り回されながらも、またあんなふうに言い合いができたことを少しうれしく思っていたけど、ビルを出た後ずっと黙って私の少し前を歩く中矢君は、やっぱり冷たくて……。


昔みたいに『早くこいよ』って手招きしたり、もう私の歩くペースに合わせてくれることもない。

周りにはこんなに人が沢山いるのに、それだけで涙が出そうになってしまう。

大きくなった背中は私をどんどん遠ざけていくけど、私は……。


ーードンッ

「あっ、すいません……」


中矢君の背中だけを見ていた私に、前から歩いてきた人の肩がぶつかってよろけてしまった。

立ち止まり、ぶつかった肩に手を当てる。

ボーッとしてた私が悪い。肩も痛いけど、もっと痛いのは……心だ……。



「なにやってんだよ」


ハッと顔を上げると、先を歩いていたはずの中矢君が目の前に立っていた。


「なんだその顔、〝また〟俺がお化けにでも見えたか」


私がキョトンとしていると、中矢君が私の左手を握り、何も言わずに歩きだす。


そこから駅までのたった数分間で

私の気持ちは確かなものになった。


手を繋いでくれたことももちろんうれしかった。

でもそれよりも、私に気づいて戻ってきてくれたこと、ただそれだけで……中矢君の優しさが伝わってきたから……。



「じゃー、俺本社行くから」

何もなかったかのように手を離し、私とは別のホームへ向かった中矢君を、その姿が見えなくなるまで見つめていた。


あなたが私をどう思っていようと、この思いは伝えなきゃいけない。

たとえ昔のような関係に戻れなかったとしても、もう後悔だけはしたくないから……。