その瞳をこっちに向けて



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 私は放課後になると鈴菜に別れを告げ、必ず図書室に行く。


放課後の図書室は、静かで窓の外に見える木々の緑色の葉が風で揺れる音すらも聞こえてきそうだ。お喋りしている人なんて一人もいない。


そんな中、手に持っている本のページを捲る音が響くのと同時に、私の視線を本の中の文字へではなく、斜め前の窓側の席へ向けた。


 私が毎日放課後図書室に来る理由。それは朝同様、凄く不純な動機だと思う。


いや、入学して1ヶ月位は本当に本を読みに来ていたわけだけど。


私が放課後になると図書室に毎日欠かさず来る理由。それは、やっぱり仁先輩を見る為。


仁先輩が瞬きをする度に、彼の座っている席の机に睫毛の影が落ちる。


その姿を本を読む振りをして、ずっと見続けているこの時間が至福の時なのだ。