その瞳をこっちに向けて



私も、仁先輩の幼馴染みだったら仁先輩の彼女になれてたのかな?

…………なわけないか。話し掛ける事すら出来なかった私には結局無理だったんだ。

だって私は、



…………見てるだけで何も行動しなかったんだから。



「美音さん、綺麗ですもんね」


ポツリとそう言えば、中畑先輩の手がぽんっと頭に乗る。


「感じ方は人それぞれだから何とも言えねぇけど
。確かに美音はお前よりスタイルはいいし、胸もでかい」

「で、ですよね」


全て間違ってないだけに反論なんて出来やしない。


ただ中畑先輩の言葉はそこで終わらず、目を細めて微笑んだかと思うと次の言葉を続けた。


「でもさ、俺から見たら綺麗かもだけど、可愛くはねぇよ。可愛いなら、……お前の方が可愛いよ」


多分、中畑先輩なりのフォローなんだろう。


「ははっ。お世辞なんて要らないですよ」

「ちがっ…」


中畑先輩が何か言いかけていたが、それを無視して「じゃあ」とだけ言うと、家に向かって駆け出す。


走りながら思うのはやっぱり仁先輩の事。



仁先輩は、またあの優しい目を美音さんに向けているのかな。

素敵だったもん。あの二人。

あの二人の邪魔なんか絶対にしちゃダメなんだ。


だから。


もう私は、…………仁先輩を見ちゃダメだ。