彼女といた仁先輩の目に私は一欠片も映っていなかったから。私へ目を向けてくれる人がまだ居るというその事に凄くホッとする。
中畑先輩は狡い。
ムカつく相手な筈なのに、こんなタイミングで優しくされたら……涙が止まらなくなるのに。
こんなことされたら、優しい王子様って私も思わなきゃならなくなる。
中畑先輩に手を引かれながら、暗くなってしまった道を歩く。そのペースは、さっきから色んな人に抜かれているから遅めなんだと思う。多分、私を気遣ってなんだろう。
終始無言で歩いていたが、私の家が見えてきた時不意に足を止め、中畑先輩へと顔を向けた。
「中畑先輩は、……知ってましたよね」
「ん?」
「仁先輩に彼女がいること」
私の口から出たのは掠れた小さな声。でもそれを中畑先輩は聞く逃すことなく、いつもみたいにバカにした目じゃなくて優しい目を私に向け苦笑する。
「知ってたに決まってんだろ。だって仁も美音も小さいときからずっと一緒にいたんだからな」
「幼馴染み…ですか」
「だな」
幼馴染みっていうカテゴリーが羨ましい。しかも美音さんはそのカテゴリーから更に仁先輩の彼女まで進んだんだ。



