その瞳をこっちに向けて



「もう、……流石に後つけないですよ」

「そっちじゃなくて」


私の言葉に対して不満そうにそう口にすると、ガシガシと左手で頭を掻く中畑先輩。


そして、真っ直ぐと私を見据えた。


「泣いてる女の子を放っておけねぇからだよ」

「……泣いてません」

「はいはい。汗な」



中畑先輩からの優しさなんて一切いらない筈なのに。

なのに、心の奥に中畑先輩の言葉がじわじわと侵食してくる。

…………ほだされる。



「ほら、帰るぞ」


スッと目の前に差し出された中畑先輩の右手。そこに流れる様に自分の手を重ねた。


「仕方ないから帰ってやりますよ」

「素直じゃねぇの」


私の言葉に苦笑いを漏らす中畑先輩だが、ギュッと握られた手が離れることはない。


その事にホッとした気持ちになったのは、一人じゃないという安心感からなのだろう。