その瞳をこっちに向けて



2度目のその場所にトットットットッと速くなる鼓動。その音を聞いて、ギュッと胸元の服を握り締めた。


「勢いで来ちゃったけど、……どうしよう」


 仁先輩を一目見たいだけ。だったんだけど、よく考えたらもう家に帰ってしまっているだろう時間だ。


今更仁先輩が家から出るという可能性っていうのは、……ない気がする。


でも、ここまで来てもう帰るってのも……。


「うわっ、とっとっと……」

「ん?」


 後ろから聞こえてきた鈴の音のような声に思わず振り返ったその瞬間。


私の身体にドンッとぶつかる大きなアンティーク調の3段チェストを両手で抱えている女性。


「キャッ!!」


彼女はそう悲鳴をあげると、チェストごとふらつき今にもそのままこけてしまいそうに。それを目にして、慌てて彼女の身体を支える為に彼女へと両手を伸ばした。


 なんとか私の手が間に合い彼女がバランスを立て直した所で、チェストの横からヒョコッと顔を出した彼女が私に向かってペコッと頭を下げる。


「ありがとうございます」

「いえいえ。大丈夫ですか?」

「はい。ほんと、助かりました」


そう微笑む彼女は、ふわっとした腰までの髪を片側で1つに束ねており目を奪われるほど綺麗で、ついつい見惚れてしまう。