「なあ、……顔上げて」


甘く優しい声音で囁かれるその言葉。


「なっ、なな何ですか?」


頭が爆発しそうなその声音に、慌てて顔を上げる。と、共に一瞬時間が止まった。


「やっと見た」


 私の目に映るのは、顔を赤く染め、嬉しそうに目を細めて微笑んでいる中畑先輩の顔で。


「やっと、……工藤のその瞳が俺に向いた」


そう言う中畑先輩は、いつもの王子様みたいな彼よりも、ムカつく位意地悪な彼よりも、もっともっと私を魅了する。


「ひと…み?」


 不意に疑問に思った言葉を繰り返してみると、途端に中畑先輩の幸せそうに微笑んでいた顔が僅かに歪む。そして言いにくそうに視線を落とし、口を開いた。


「俺。……工藤をずっと見てた。工藤が仁を見てた時からずっと。だから、工藤と話す前から工藤の名前だって知ってたし、……工藤の家のある場所だって知ってた」

「えっ…と。それは」

「きっと俺は、……工藤のストーカー」


 再び私に向けられた顔は、泣き出しそうな顔と嬉しそうな顔が入り交じっていて。またしても、ドクンッ…と私の心臓を跳ね上げさせる。