ツーっと頬を伝う冷たい水。
ギュッと唇を噛み締めるが、溢れ出したその水は止まらなくて。頭の中はぐちゃぐちゃで。もう自分でも何がなんだか分からない状態になってしまったその時。
「50……度」
少しだけ顔を下に向け、中畑先輩が口にしたその言葉が頭に響く。
その言葉が何の意味かなんて分からない。ただ、中畑先輩が下に向けていた顔をもう一度私へと向けた時の顔が余りにも幸せそうで、一気に目を奪われた。
タンッ、タンッ…と中畑先輩が近付いてくる足音に重なってドクンッ、ドクンッ…と私の心臓が叫んでる。
私の目の前まで来ると足を止め、ゆっくりと右手を伸ばしてくる。そして、中畑先輩の親指が私の頬を伝う涙を掬った。
「泣くなよ、工藤」
前にも聞いた事があるこの言葉。
仁先輩に彼女がいた事に気付いて、一人で泣いていたあの時。
あの時も、こうやって中畑先輩は私の涙を掬ってくれた。
「泣いてません。これは」
「汗…なんだろ」
「そ…ですよ」
中畑先輩が『あの時』を覚えていたことに恥ずかしさが込み上げてきて、思わず顔を下へと向ける。
そんな私の両頬に中畑先輩の掌が添えられた。



