だが、そんな日々に彼女と俺との唯一の接点を彼女がもたらした。今更だが、そのまたとないチャンスを逃すものかと掴んだ俺は、相当身勝手だと思う。


彼女がどんなに嫌そうな顔を俺に向けていても、それでもその瞬間だけは彼女の瞳に俺が映っている。あの潤んだ瞳ではないけれど、それでも見ているだけよりはずっといい。


 何だかんだで真っ直ぐで。いつもいっぱいいっぱいで。そんな彼女を近くで見れる位置を手に入れたら、他にももっと…と日に日に貪欲になっていく。


苛々した顔も。泣いた顔も。笑った顔も。全部全部自分だけのものにしたくなる。



日増しに彼女を好きな気持ちが溢れてくる。



「悪い。ちょっと用事思い出したから先に帰るな」


学校帰りに断りきれなかったクラスメートとのカラオケで、隣に座っていた友人にそう言うと鞄を手に取って席を立つ。


「まじかっ!」


男女入り乱れているこの場で同じ男が一人減ったってたいして気にしなさそうなものだが、酷く残念そうな顔をするそいつに苦笑いが漏れる。だが、申し訳なさを感じながらも、「悪いな」とそのまま外に出るのは、友人よりも気になることがあるからだ。