「ほんとだ。そう思うとちょっと安心する」
「でしょ。明日も挨拶で!」
「了解です!」
敬礼のポーズをしながら思わず頬が緩んだのは、鈴菜の笑顔につられたから。それと、……中畑先輩に挨拶だけでも話し掛けられたから。
漸く私は、泥沼にはまっていた足を片足だけ出せたのかもしれない。
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あの挨拶をした日から1週間。未だに私は中畑先輩に挨拶しかしていない。
「1週間挨拶してみてどうだった?少しは慣れた?」
「挨拶は慣れたかも。でも、……この1週間挨拶以外中畑先輩と話してない」
朝の教室で鈴菜に苦笑いを漏らすと、鈴菜がニコッと微笑んだ。
「うん。悲惨よね」
さらっと吐かれた毒。それに、「で、ですよねー」と答えながらも、ガクッと肩が落ちる。
確かに『悲惨』そのもの。
何も話せない状況からはましになってはいるが、挨拶するだけなんて人は私以外にもかなりいる。
前は話せてたのに……ーー
そう思うと自然と溜め息が漏れる。



