その瞳をこっちに向けて



「仁先輩の時はストーカーまでしてたのにね」

「ほんとだよね。……って、ストーカーじゃないし!!」

「立派なストーカーだったわよ」

「違うし!」

「はいはい」


 ストーカー否定は鈴菜に軽くあしらわれてしまったが、実際仁先輩の時は逃げたいとは思わなかった。逆に、もっと近付きたいと思った。


こんな初めての感覚に陥るのは、……中畑先輩のせいだ。


「それにしても、麻希にとっての仁先輩と中畑先輩の違いって何なんだろう?」

「何だろう?」


首を傾げる鈴菜と同じ様に首を傾げると、鈴菜からため息が漏れる。


そして、ギロッと鋭い目を私に向けた。


「何か違いは見付からないわけ?」

「違い…か。敢えて言うなら、中畑先輩の瞳に私が映る事がある……かな。仁先輩の瞳に私は映った事がなかったから。……1度もね」


 仁先輩は私が追いかけてただけ。話したのだって中畑先輩絡みの事。仁先輩が私を気に掛けた事は1度もない。でも、……中畑先輩は違う。


中畑先輩の瞳に私が映る事があるんだ。人の事を散々バカにするくせに、何だかんだで手を差しのべてくれる。



だから、……気付いたら好きになってた。

でも、だから私のこの気持ちを中畑先輩に気付かれたら……ーー



そう思うと逃げたくなるんだ。