その瞳をこっちに向けて



 中畑先輩が準備をしてくれた蝋燭の火がゆらゆらと揺れる。暗い場所に灯るその1つの火はどこか幻想的だ。


「火、気を付けろよ」

「はーい」


そう言うと同時に、手に持っていた花火をそっと火の中へ差し入れる。


 ジワジワと火に侵食されていく花火の先端。そして、一瞬火がうねったと思ったらブワッと赤と青の火が飛び出した。


夜の黒に映えるその眩しい程の火の光。


「綺麗ですね」

「夏、だろ?」

「夏、ですね」


鼻を擽る火薬の匂い。もくもくと上へと向かう煙。



どれをとっても、ほんと。


……夏だ。



「浴衣、……着たかったな」


 手元で光を放つ花火へ視線を落としながら思わずポツリと呟いたその言葉。それをやっぱり聞き逃さなかった中畑先輩の声が届く。


「来年な」

「来年か。ですよね。来年。……私、来年も花火大会とか行けなさそう」


残念かな、来年も鈴菜にあっさりと断られている光景が目に浮かぶ。