その瞳をこっちに向けて



 自転車の前籠に入れられていた大きめの鞄を、右手でパンッと軽く叩いて「手持ちだけどな」と付け加える中畑先輩。


でも今の私は手持ちかどうかなんて関係なくて。

中畑先輩のこの行動がただただ嬉しくて。


「やりたいです!」


気付いたらそう口にしていた。


中畑先輩といえば、私がそう言うのを分かっていたかの様に「だろ」と口角を上げる。



ムカつくけど、中畑先輩は私の事をよく分かってる…と思う。

私が夏休みに夏らしい事をしなかったと言っていたから。だから私をここに連れてきてくれた。

花火まで用意して。



 ドクンッ…、ドクンッ…と唸る様な心臓の音を頭に響かせながら中畑先輩が袋から出した花火を一本手に取ると、くしゃっと顔を綻ばせた。




ーー私の夏はまだ終わってない…な。