その瞳をこっちに向けて



「はい。こういうのは憧れのシュチュエーションなわけですよ」


そうハッキリ言い終わった後に、フフンッと意気揚々に鼻を鳴らす。


 それに直ぐ様中畑先輩の文句が飛んでこない事に、中畑先輩に口で勝った気がして僅かな優越感に浸ろうとしたその時。

「ならさ」

その言葉と共にスッと後ろに向けられた中畑先輩の右手に、ガシッと右手首を掴まれた。そのまま前へと引っ張られた私の手は、強引に中畑先輩のお腹へと回される。


「えっ!ちょっ!」


突然の右手の状況に混乱している間に、あっさりと左手もかっ拐われて右手同様に回されてしまった現状に、開いた口が塞がらない。


手を元の場所に戻そうにも自転車は速度を上げていて、もう手を離す勇気も湧かない。そんな私の精一杯の抵抗として、開いたままだった口を必死になって動かした。


「なっ、なっ、何すんですか!?」

「腰に手、回した方が憧れのシュチュエーションってのになるだろ」

「そそそそ、それは、……そうですけど」



 確かに、自転車の後ろに乗った女子は腰に手を回している方が憧れのシュチュエーションではあるわけだけど。

実際、自分がそれをやるとなると……



バクバクと大きな心臓の音が頭に響く。




心臓、爆発して死んじゃいそう……ーー