その瞳をこっちに向けて



「腰に手、回さねぇと危ねぇんだけど」

「わ、私は荷台をガッチリ掴んでる方が安心するんです!」

「ふーん」


 荷台から絶対に手を離さない!という意思が伝わったのか、それ以上何を言うわけでもなくペダルに掛けられた中畑先輩の足が下へと下ろされる。


「じゃあ、行くぞ」


そう声が掛かった時にはもう自転車は進み始めていて。流れていく景色と顔を撫でる様に通り過ぎていく風に徐々に口角が上がっていく。



なんか。

なんかこれって……


もの凄い青春みたい!!



「うわー!自転車の後ろに乗るなんて青春みたい!憧れのワンシーンだ!!」



 一度やってみたかった事をしているせいでテンションが上がりまくっている私に、笑いながら「バーカ」と言う中畑先輩。


それにいつもなら頬を膨らませる所だが、今日はニカッと笑う。


「バカでいいですよーだ!だって私、今めちゃくちゃ楽しいですから!」

「道路交通法違反なのに?」



乗る前に言っていた言葉をここで持ち出してくる辺り、明らかにからかう気満々なんだろう。

でも、……でもだ。

今現在、相当機嫌が良い私は、そんな中畑先輩のからかいもさらっと受け流す事が出来たりする。