ご飯も残り少なくなってきた頃、

練の携帯が音を出して震えた。


口の中に放り込んだたくあんを

ばりばりと噛み砕きながら、

練は通話ボタンを押した。



『もしもし練〜?』


女性の声だ。


『ねぇいまどこにいるの?練の家に行ったらいないんだもん』


軽く俯き始めたはるかを見てから

練はその場を立ち上がる。


「ごめん成海。今日約束とかしてた?」

『ううん、会いたくなっちゃって』



はるかから離れて電話を続ける。

「うん、わかった、もうちょっとしたら帰るから、うん」


はるかの方に戻ると、

はるかは空いたお皿を流しに運んでいた。


「すみません、僕ちょっと…」

「大丈夫です」


はるかは素っ気なくそう答えて

スポンジを掴む。


「それじゃあ、菊原さん、また」


なんとなく変な空気を感じつつ、

練は逃げるように靴を履く。


カチャカチャとお皿を洗う音が聞こえるばかりで、

お見送りはない。


玄関を開けると同時に、


「はるかです」


という小さな声が聞こえた。



「はるかです、わたしの名前」


一瞬目が合った。


練は小さく会釈をして、

はるかの部屋を出ていった。