呂律が回っていない理子をそのままにして
車に戻りはるかを抱き起こす。

「ん…」

はるかの瞼がほんの少し開き、目が合う。

「あれ…」

「あ、起きました?歩けます?」


シートから起き上がろうとするはるかのシートベルトを外す。


膝に力が入らない

航平ははるかの腕をとって自分の肩に回す。


「階段あるから、気をつけて」

一段一段、ゆっくりと確実に登っていく、
というか、登らせていく。

やっと自分の階についた時、
後ろから来た人に「すみません」と通路を譲る。

「…吐きそう」

「え!待って!待って!我慢して!」

航平は慌ててドアを開ける。

「無理…」


「あれ?」

振り向くと、さっきすれ違った男性。

はるかの瞼がゆっくり開いた。

と同時に開く隣の部屋の玄関ドア。


「翔太、遅い。あった?牛乳」

「あ、うん」

「あ、こんばんは」

隣の住人が航平に会釈しつつ挨拶する。

「こんばんは」

翔太のいぶかしげな目線に航平が慌てて弁解する。

「違うんです!飲んでて酔って、家がわからないからとりあえず俺の家に!違いますから!そういうんじゃなくて」

「誰…?」

ぐったりと前に垂れていたはるかの首が上がる。