悟られないように返事をしたつもりだけれど、そういうちょっとしたところに敏感な成美はすぐに分かってしまったようで、「明らかに動揺してるな」と意地悪く私に突っ込んできた。



「ごめん」



「なんで?別に謝る必要ないじゃん。そりゃまあ、最初はむかついたけれど、しょうがないじゃん。お姉ちゃん本気みたいだし」



「え?」



「本気じゃん。じゃなかったら、こっちに引っ越してくる理由が分からないもん。向こうの方が仕事いっぱいあるのに、こんな田舎でまた一からやり直すなんて気が知れないよ」



「成美のことだから、今回のこともっと気楽に考えてるかと思った」



「まあそもそも私はちっちゃいこと気にしないタイプだよ?でも今回のことはでっかいわけ。……私だったら出来たかなって……だから今回のお姉ちゃんの決意にはびっくりした」



「お父さんの作ってくれたバチ見ちゃったらね、ぎゅってしてたタガが外れたね」



「……でもそれだけじゃないでしょ?」




成美はゆすぎ終わった茶碗を水切り籠に重ね手を拭いて「じゃ、学校行くから」と言って私に背を向けた。



「あ、うん。行ってらっしゃい」



成美の背中に声をかけた瞬間、成美の動きがぴたりと止まった。

そして数秒そのままでいた後、何か考えがまとまったのか突然くるっと振り向いて満面の笑みで「行ってきます」と私に応えた。