「そういえばさ、昨日家に来た井上翔太。久しぶりに会ってどうだったの?」



「ど!どどどうって何が?」



仁成兄ちゃんが急に翔太の名前を出したものだから、声が裏返った挙句どもってしまった。



「……お前、あいつが小学校の時急にいなくなってから、かなり元気なくなってただろ?だから、ちょっと気になって」



「あの時は、まあ……翔太がいなくなったこともあるけど、それだけじゃないよ」



「なんか兄ちゃんに出来ることあるか?」



あまりにも仁成兄ちゃんの心配する顔が昔とちっとも変わらない、幼いころの私を見るような顔つきだったからついつい笑いがこぼれてしまった。



「ははっ。大丈夫だよ。もう私、29だよ?自分でなんとか出来るって」



仁成兄ちゃんは、そう言って笑う私の顔をさらに心配するように見つめ続けた。



「親父とのことも、一人でなんとか出来るのか?この機会だし、親父の言ってた通りこのまま音羽に……」



「私は!」



仁成兄ちゃんの言葉を遮るように、私は自分の言葉を仁成兄ちゃんの言葉に被せた。



「音羽には戻るつもりはない。私の戻るべきところは向こうの方だし、ここに私が戻ってきたって、お父さんは喜ばないよ」