「やることがあるからしばらくはこっちにいるけど、近いうちまた向こうに帰るから」
「帰るって、お前の家はここだろう?ここにいればいいじゃないか!」
「向こうで就職決まった時も言ったけど……私は音羽にいるつもりはないから」
私は、そう言って言葉を言い捨てると、「ちょっと待て!」と止めるお父さんの声を無視して居間を飛び出し階段を駆け上って部屋に閉じこもった。
心臓がどきどき鳴っている音が聞こえて、目にはじんわりと涙が溜まっていた。
私はふらふらとベッドのところに歩き、体を投げ出すようにしてベッドにうつ伏せになるようにして倒れこんだ。
「やっぱりお父さんは変わらないな……」
諦めのようなうんざりしたため息が布団にしみ込んだ。
私は7年前、この町とお父さんから離れたくて都会の会社を勝手に受けて、逃げるようにしてこの家を出た。
「ここにいればいいじゃないか……ってよく言うよ」
お父さんとこうして仲が悪くなっちゃったのは、お父さんのせいじゃない。
私は『あの時』から、お父さんとはうまく話せないし、まともに向き合うこともできなくなってしまった。
このままじゃいけないってことは分かっているのに、どうしたらこの関係を元に戻せるのか……。
答えが出ないまま17年も経ってしまった。

