太鼓の向こうにすっぽりと隠れる彼に、こんなに惹かれるなんて数か月前までは思いもしなかった。

私は、ずっと向こうにいるものだと思っていたし、こんな「らしくない」ことするわけないって思っていた。

太鼓の革にそっと手を触れると向こうに翔太を感じられる。

そんな気がしてしまうほど翔太とすごした日々は、私にとって大切なもので代えがたいもの。


そんなことを考えているとき、海とは反対側にある小さい私の産まれ育った町の方から、ドンドンと合図花火があがった。
色のない音だけの花火なのに、今まで見たどの花火よりも心が躍った。



「ナル!」



太鼓の向こうから、翔太の声が聞こえた。



「俺の夢に付き合ってくれてありがとうな」



「ここまで付き合わせておいて今さらだよ!」



「まあ、そりゃそうか。……ナル!忘れられない夏にしような」



「うん!」



合図花火の煙が青い空に消えていく。

忘れられない夏が始まる。