新幹線で3時間。車で20分。

そこにあるのが、私が生まれ育った音葉町。

新幹線で北上するにしたがって、緑が多くなるのが分かる。

新幹線から降りてボストンバックを肩にかけエスカレーターを上る。

都会と違って誰も急ぐ人はなく、都会にならって開けられたエスカレーターの右側の空間はちょっぴり寂しく感じた。

改札口に近づくと、「成子!」と聞きなれた声が聞こえた。



「兄ちゃん、わざわざ迎えに来てくれたの?」



「当たり前でしょ?俺は仕事より成子が大切なんだよ?」



「……相変わらず気持ち悪いね。そういうのは響子(きょうこ)ちゃんに言ってあげなよ」



響子ちゃんというのは、私の兄、仁成(ひとなり)の奥さんだ。

小学校からの幼なじみで、シスコンでくよくよしがちなお兄ちゃんのことをよく理解してくれている。

響子ちゃんは、『くよくよするのは、仁成が優しい証拠なんだよ』といつも言っている。


私が高校生の時に二人が結婚すると聞いた時、お兄ちゃんが幸せになることよりも響子ちゃんが私のお姉ちゃんになるんだ!私って幸せ者!と思ったことを今でも覚えている。


仁成兄ちゃんは、何も言わずに私のボストンバックに手を伸ばすと軽々と肩にかけた。



「この他の荷物は、先に実家に送ったんだけど届いてる?」



「うん。届いてたぞ。段ボールで二箱。ただの帰省だってのに、何をそんなに送ったんだ?」



「あー……そのことなんだけど、実はさ」