「いや、私にしか出来ないってそんな大袈裟な」



『いや、絶対!山本さんにしか出来ません!』



どうしてこの人こんなに必死なんだろう。

電話の向こうからも熱気が伝わってくるほど、その言葉には力があった。

リビングのテーブルに乗った卓上のカレンダーを見つめながら、この先予定もないしなと思いつつ私は体を起こした。



「私がそちらに帰ります」



『え?帰るって…お仕事は大丈夫なんですか?』



「あ、ええ…まあ…まとまったお休みを取れそうなので」



というか今の状態だと永遠にお休みなんだけれど……そこは見栄を張ってしまった。



『そうなんですか?うわあ……良かったです、山本さんに会いたかったんですよ、ずっと。そうしたらこちらに帰ってきたらまた連絡いただけますか?』



「はい、分かりました。この番号に折り返していいんですよね?」



『はい!この番号僕の携帯なので。では、楽しみにしていますね!』



「はい。では」



電話を切って途端にちょっぴりだけドキドキしている自分に気づく。

会いたかった?ずっと……?


この日の電話が、これからの私を変えていくことになるなんて。

この時の私は思いもしなかった。