いつもはしんとしている海浜公園の中央には、綺麗に磨かれた大太鼓が置かれていた。

置かれているだけなのに、不思議と太鼓の音が聞こえてきそうだ。


木材で組み立てられた太鼓台のまわりには、商店名が書かれた提灯が取り付けられていた。



「なんか、みんなに守られてるって感じがするな」



潮風に髪の毛をぐちゃぐちゃにされた翔太が、嬉しそうに呟いた。



「……そうだね」



「太鼓どっち側で叩く?向かって右?左?」



「私は、どっちでもいいよ」



「お内裏様とお雛様で言ったら、俺が左でお前が右じゃない?」



翔太(しょうた)の言葉に顔がカーッと熱くなる。



「ふっ!…夫婦じゃないんだから、お雛様って!」



翔太は、必死になる私を驚いたように見て「あ、ごめん」とだけ呟いて目をそらせ、太鼓に視線を戻した。


しーんとした空気に耐えられなくなった私は、太鼓に続く階段を上り右側に立った。



「ナル、そっち側でいいの?」



「うん、いい。」



お雛様になりたいし…とは言えなかった。