言っても…いいですか?

「あなたのお母さん、交通事故で死んだわけじゃないんだよ。
 あなた、車で隣に乗ってたんでしょ?
 お母さん、何してたの?隣で、そのナイフ持って…」

お母さん、がナイフを持って、していたこと…

ザッ、ザッザッ…ごめんね、ねお
こんなお母さん、を許して、ね……

少しずつ、記憶が記憶が戻ってくる…よ、

「お、お母さんお母さんお母さん!!
 私を置いて行かないで…っ!泣」

やだやだやだ、お母さん待ってよ。泣

ナイフ、あのナイフでお母さんが…?

ガラガラッ

あぁ、先輩出てきちゃだめ。
入ってお願いだから…泣

「ねお?ねおっ!どうした?」

だめ、先輩

「先輩、早く向こう行って、
 お願いだからっ!!」

その時、先輩の後ろで彼女がニヤッと私を見て笑ったのが分かった。
彼女は先輩を刺すきだっ!
やめてっ!

そう思った瞬間、私は自分をかばうよりも先輩が危ないと感じ先輩を突き飛ばした。

そして、グサッ…
あぁ、痛いよ。
服にだんだん赤いシミが広がっていく……

彼女を見ると、先輩に刺すつもりで私が庇うとは思っていなくて、本当に刺してしまって焦っている。

こんな時、他の人だったらこの人を恨むだろう。
でも、私は出来なかったんだ。
ただ私に母親の記憶を戻して辛い思いをさせたかっただけだと思う。だから…、

「……やく、はやく逃げて。
 悪気があったわけじゃないんでしょ?
 だったら、はやく、逃げ、てっ!
 お、おね、がいっ」

「ご、ごめんなさい!
 そんなつもりじゃなかったの。
 わわぁーーーー!!!」

パタパタパタ……

あぁ、良かった良かった

でも、あとは先輩。

「先輩、先輩が怪我一つなくて良かったです。
 先輩が怪我したら、大変ですもんねぇ笑」

「ねお!無理して笑うなっ!
 今、救急車呼ぶから!!
 ごめん、俺が出てきたせいでごめんな…」

先輩の頬に涙が伝う、
あぁ、何で私先輩泣かしてるの?
私のばか、泣かせちゃだめでしょ。
  "先輩、大丈夫だよ"
そう言いたいのに怪我のショックと記憶の一部を取り戻したせいで頭がパニックを起こして、先輩に声をかけたいだけなのに言えずだんだんと意識が薄れていく……

もし、私が次目を覚まして先輩の事を忘れていたとしても何度でも好きになると思う。

でも、今の気持ちは今しか言えない…

だから、これだけは…

「せ、せん、ぱい…、大好き、で、す………」

「ねお?ねお、起きれよ!
 もう、救急車来るからお願いだからまだ起きていろよ!ねおっ!!!……」

あぁ、先輩ありがとう。

大好きだよ、きっと何度でも先輩に恋すると思うんだ。

お母さん、ごめんね。忘れててごめん。
でも、また忘れちゃうかもしれない。
でも、これだけは言えるよ。

お母さん、産んでくれてありがとう。
おかげで素敵な人たちに会えたよ。
ありがとう、ありがとう……