その書類を読んでいる時に浩二の頭に何かが浮かんで消えた。しかし、今の浩二にはそんな事を気にするよりも、ニコルの事、その事を考える事が何よりも優先された。
 ―――日本に来て間もないという事は、あまり日本語が出来ないのかも知れないな。でも、それなら何故日本の学校に転校してきたんだ?
 椅子にもたれて書類を読んでいると、浩二は背中に冷たいものを感じた。じんわりと汗が滲み出てきた。ゆっくりと振り返ると、職員室の扉が開いており、その隙間からニコルが浩二の事を見つめていた。
 うつろなその瞳はこの世のものとはとても思えなかった。浩二はじわりじわりと体が絡め取られる感じがし、椅子から立ち上がる事も、声をあげる事も出来なかった。汗で緑色のTシャツの脇は色が変わっていた。
 ―――な、なんだ。何が起きているんだ?
 額から溢れ出た汗が床に一滴ゆっくりと落ちていった。それを合図にしたかのように、始業のベルがなった。