「沙世ちゃんに似ている彼女がいると嫌か?」
ストレートに訊いてくるのは、浩介らしい。
冬真は苦笑いをして、ドラムのシンバルを撫でる。
「……慣れなくちゃ、ですよね。そういうことにも」
「お前に罪悪感があるうちは必要だと思う」
「罪悪感?」
「沙世ちゃんに対して、持ってないか?」
鋭いところを突かれて言葉を返せない。
「彼女、何か言っていましたか」
「いや。なにも。……なぁ、冬真。俺がどうしてこの町に戻ってきたと思う?」
浩介がアーティストとして一番良い時に、東京からこの田舎町に戻ってきたことは謎だった。
色んな憶測が語られても、浩介はただ笑って「この町が好きだから」と答えていたのを冬真は覚えている。
「この町が好きだから。……それだけじゃないってことですか」
「……生きていれば、俺には子どもが二人いるはずだった。二人とも、生きている状態で会うことが出来なかったけれど」
初めて聞く話に、冬真は目を見開く。
「楓は二度妊娠して、二回とも失い、そして二度と子どもを産めない体になった。残ったのは買っておいたベビー用品だけ。残酷な話だよな。同時に俺の書いた曲が注目を浴び始めて、忙しくなって。楓は、帰りたい、自分はあなたに釣り合わない、別れたい、と言った。……正直悩んだよ。楓を苦しめているのが俺なら、てな。でも、中学の頃から楓が好きだった。あいつがいない人生なんて想像したことなかった。二度目の死産のときは、楓も危なかったんだ。待っている間ひたすら祈ったのは、楓が生きていてくれることだけだった。それなら……答えはひとつだよな」
「それで、帰ってきた、ですね」
浩介は冬真を見て、苦笑いをする。
「ただ帰ってくるだけじゃ駄目なんだよ」
スタジオの中においてあるキーボードのカバーを外し、浩介は電源を入れた。
幾つかのキーを押し、キーボードの前に座る。

