ゆえん



目が覚めて、目の前に墓地の風景が広がっていて、冬真は右手で目を覆った。

夢だったのか……。

目覚めてしまったことを心から悔いた。


「冬真君、起きた?」


ぼんやりと楓の顔が見える。


「起きたのか」


後方からも声が聞こえて、冬真が振り向くとそこには浩介が立っていた。


「馬鹿ね、こんなところで眠ったりして。本当に馬鹿なんだから」


楓の瞳が潤んでいる。

大粒の雫が今にも零れ落ちそうなときに楓は冬真の腕を叩いた。


「一人きりで、そんなふうに。いつまでも馬鹿なんだから」

「……どうして、ここに?」


浩介は持っていたペットボトルの中の水を、活けた花の横から注ぎ始める。

お墓に飾るには見えないようなバラやガーベラ、華やかな花が活けられていて、冬真が持ってきたカーネーションとカスミソウも一緒に飾られていた。


「今日は二人の誕生日なんだもの。良かったね、今年はパパも来てくれたわよ」


涙を指で拭い、楓は微笑む。


「今年はって……。まさか去年も?」


楓はにっこりと微笑み、浩介も頷いた。


「真湖が生まれたときに、うちの店であれだけ『沙世子と真湖の誕生日が一緒なんですよ』って言い歩かれたんだから、忘れたくても忘れないよなぁ」


「真湖ちゃんは子どものいない私たちにとっても、可愛い娘みたいなものだからね」


きっと今、自分はぐちゃぐちゃな顔をしていると冬真は思った。


「なんて顔してるんだ」


浩介がふっと笑い、冬真の頭をこついた。


「……ありがとう、ございます」


葉山夫妻が、二人の誕生日のことを覚えていてくれたことが嬉しかった。

二人のことをしっかりと覚え続けてくれる人がいる。

それを知ったことが、冬真の心の殻に穴を開け、柔らかな空気を吹き込んでくれた気がした。